おどろおどろしい作品を描く印象の強い江戸川乱歩ですが、『芋虫』もまた然り。以下、あらすじです。, 戦争から帰還した夫は四肢が全て失われており、加えて耳も使えず頭も十分には働かず、できることと言えばのたうち回ること口にペンを加えて何文字かの筆談をすること程度という有り様。妻は面倒を見ながらも、哀れみ故に慈しむ気持ちが強く、ある日意図的ではないものの無意識的に夫の目を失明させてしまいます。許しを乞いながらも急ぎ、医者を呼んでくると、夫は「ユルス」と書き残したまま家を出ていました。四肢のない夫が遠くに行けるはずがないと捜索をしていると…, 落ちぶれて人かどうかすら定かではなくなった夫を慈しむようにして世話をします。夫の生殺与奪は全て自分が握っているようなもの。自分より他に頼れる者もいない弱くて脆いただの肉塊だからこそ、その醜さを慈しむ。人が人を蔑むことの愉悦。秘密裏の願望を、普段は決して表に出ることのない悪を見事に暴露しています。, 妻には夫が喋ることのできないために、ものを訴える能力が目に集約されているかのように感じられます。夫の目は人間らしさが感じられるコミュニケーションツールの最後の砦であり、唯一残されたその目を潰すことで夫の醜さは完成されたのです。滅茶苦茶にしてやりたいという破滅的な激しい感情が溢れだしていく様は圧巻でした。, 全体を通しての非常に肉感的でグロテスクな描写が効いて、心情描写が始まれば自然と心の暗部につれていかれます。, 肉塊と化した夫の跳ね回る様は脳裏に焼き付けられ、最後の最後に潜み続けていた凄絶さが噴出し、圧倒的な余韻を残していきました。. Title 江戸川乱歩「人間椅子」論 --エログロという評価と心理 的盲点--Author(s) 宮本, 和歌子 Citation 京都大学國文學論叢 (2016), 35: 103-112 価格:572円(税込、送料無料) (2020/3/20時点), 「パノラマ島奇譚」に出てくるパノラマ島の幻惑的な光景の描写はグロテスクなのに美しく、それがより作品の恐ろしさを増しています。, 当時とは使う言葉や表現は変わっていますが、それでも乱歩の作品は読みやすく感じます。, また時には荒唐無稽な設定もありますが、奇想天外なストーリーも乱歩作品の魅力で、読んでいくうちに自然と引き込まれていくところも魅力と言えます。, のちに長編作品を多く発表している江戸川乱歩ですが、駆け出しのころは短編小説を最初から最後まできちんと仕上げて雑誌に発表していました。, そういった短編小説のほうが、後に発表される長編よりも面白いという声が意外と多いです。, 乱歩が実績を積んでから書いた長編の中には見切り発車的に連載をスタートさせたものもあります。, それらの長編作品の中には展開がその場しのぎになってしまい、連載の途中で乱歩がサジを投げてしまったものも少なくありません。, そこで乱歩の魅力を知る上でまずは「屋根裏の散歩者」のような初期の短編を手に取ることをオススメします。, 新潮文庫の「江戸川乱歩傑作選」には「屋根裏の散歩者」を含む9つの短編小説が収められているので、初めての方はここから始めるのがいいのではないでしょうか。, 江戸川乱歩傑作選改版 (新潮文庫) [ 江戸川乱歩 ] これは、戦争で手足を無くした男と、その妻の物語。一種の猟奇趣味、エログロ小説と言えばそうなのだが、左翼からは「反戦文学」と言われたこともあったという。, 『芋虫』と似た話としては『ジョニーは戦場へ行った』(ドルトン・トランボ著)がある。作者本人が映画化もしている。この話の「手足を無くした男」に妻は居ないし、エログロ描写も無いが。, さらに『芋虫』が元ネタの映画としては『キャタピラー』(若松孝二監督)がある。これも戦争で手足を無くした男と妻の話。時代背景はこちらの方が後になるが。, 『芋虫』と『キャタピラー』は、結末も似ていて、男は最後に水に落ちて自殺してしまう。ただ、その「死ぬ理由」が違うのではないか、と考えている。, 『芋虫』の男が死んだのは、妻への愛ゆえだったのだろう、と思っている。だが『キャタピラー』の男が死んだのは、戦場で犯した罪から逃れられない苦しさからだったのであろう。, 私は「桐嶋ローダ」と申します。メガテニストであり、葛葉ライドウ(メガテンシリーズのキャラクター)を愛する。「超國家機関ヤタガラス」(メガテンシリーズに出てくる架空の組織)の怖ろしさを伝える記事をメインにしています。このブログは個人の非営利ブログであり、ゲームメーカー様や本の出版社様などとは一切無関係です。ブログ記事や写真の無断転載はお断りします。当ブログと記事へのリンクはフリーです。コメント欄はありませんので、ご了承ください。私に対して誹謗中傷行為や名誉棄損行為・迷惑行為・ストーカー行為などをする方には厳正に対処。特に悪質な中傷等を繰り返すような方を見かけた際は法的処置を取る可能性もあり。, lucyukanさんは、はてなブログを使っています。あなたもはてなブログをはじめてみませんか?, Powered by Hatena Blog こんなお題があったので、とりあえず…、江戸川乱歩の小説で『芋虫』というのがある。 (※以下ネタバレあり) これは、戦争で手足を無くした男と、その妻の物語。 乱歩の小説作品は多くの人がご存知だと思いますが、一体どんな人物だったのでしょうか。. 子供に人気だった「少年探偵団」シリーズなど従来の作品を再開するほか、評論など新たな分野でも活躍。 おどろおどろしい作品を描く印象の強い江戸川乱歩ですが、『芋虫』もまた然り。以下、あらすじです。 戦争から帰還した夫は四肢が全て失われており、加えて耳も使えず頭も十分には働かず、できることと言えばのたうち回ること口にペンを加えて何文字かの筆談をすること程度という有り様。 その内、探偵小説自体が全面禁止。乱歩の元には原稿依頼が来なくなり、敢えなく休筆する羽目になっています。, 太平洋戦争が終わって検閲が解除されると、乱歩は執筆を再開します。 【変節漢と呼ばれても】主君を7度変えた男・藤堂高虎の戦国処世術 以後も乱歩は休筆と放浪が相次ぎ、専業作家として活躍した期間の半分以上は休筆。それでも多くの作品が発表されているのは、さすが大乱歩といったところでしょうか。, 江戸川乱歩は子供向けの推理小説も執筆しています。 江戸川乱歩ファンはもちろん、実は読んだことないという人も、これを機に乱歩作品を読んでみてはいかがでしょうか。, 関連記事 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。 (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); Sorry, you have Javascript Disabled! 江戸川乱歩の性格と人柄は? 江戸川乱歩の性格・人柄については、大きくわけて3つあります。 具体的には、 ・ネガティブな性格 ・自ら「厭人癖」「孤独癖」 ・誰にもない独特の思考. 新人発掘や、空想科学小説の支援も手厚く行い、後世の小説界発展にも貢献しました。, そんな江戸川乱歩の作品は、存命中に全集が4回も刊行されています。 有名な作品が「怪人二十面相」シリーズ。探偵・明智小五郎とその助手・小林少年が、大怪盗・怪人二十面相と対峙する作品です。, また、江戸川乱歩の作品は、異常性欲作品としての人気もありました。 「芋虫」は、四肢を失った傷痍軍人の妻が、夫に強い執着を覚える短編小説。2010年に公開された映画「キャタピラー」のモデル作品でもあります。, ですがこの作品、発表された当時は日本が戦争体制の中で検閲を厳しくしていた頃。編集者の意向で多くの部分を伏せ字にして雑誌に掲載されましたが、それでも全文削除・・・実質発禁処分となっています。, 江戸川乱歩がそれまでに発表した多くの作品も、検閲対象となりました。部分削除や訂正が求められ、絶版にまで追い込まれました。 全集は、普通作家の死後に刊行されるもの。存命中に刊行されたのは、2016年現在の日本では江戸川乱歩ただ1人ではないでしょうか。, 時代の流れの翻弄されながらも、様々な名作を遺した江戸川乱歩。 戦争から帰ってきた夫・須永中尉の姿はもう昔の夫の姿ではなかった。両手両足…四肢を完全に失い聴覚と味覚も失った。人の姿をした何か別のものにさえ見える夫を献身的に介護していくうちに須永の妻・時子は次第に夫を虐げることに快感を感じていく、「芋虫」と化した夫は最早人ではなく時子の玩具。世間から隔離されたような家で起こる異形の夫と妻の倒錯的小説。, この小説は1929(昭和4年)に本格推理小説雑誌「新青年」にて掲載された小説。初めは「悪夢」と題されていましたがのちに「芋虫」に戻された。小説内に反戦的な表現と勲章を軽蔑するような表現があったことで編集者が当局の検閲を気にして娯楽雑誌だった「新青年」に回された。それでも伏せ字だらけの掲載で発表され、この小説は戦争中江戸川乱歩の小説は一部削除が命じられたものが多かったことに対して「芋虫」は全編削除だった伝説とでも言っていい小説。当時は「蟹工船」などが代表のプロレタリア文学が盛んだった時代、それ故反戦小説は激励されていましたが乱歩自身この全編削除について「左翼より賞賛されしものが右翼に嫌われるのは至極当然の事であり私は何とも思わなかった」「夢を語る私の性格は現実世界からどのような扱いを受けても一向に痛痒を感じないのである」と回答。「人間のエゴ、醜さ」を表現しただけに過ぎないらしい。この「芋虫」は江戸川乱歩の小説の中でも群を抜いてグロテスクで官能的、好き嫌いがはっきり分かれるだろう小説ですが私はこの手の話がとても好きなのですぐに引き込まれてしまった。当時の男が常に女よりも優位という差別、夫婦間の感情、障害者の介護の辛さと見た目の醜さ、性欲、汚い欲望と本音を隠すことなくリアルに描かれグロエロ作品を得意とする乱歩の生々しい表現が素晴らしい。妻視点で話が書かれているところがよりリアルで考えさせられるところもあるミステリーさも微かにある小説は倒錯的愛憎劇と言っても言い。, ペンネーム・江戸川乱歩はその名の通り有名な推理小説家「エドガー・アラン・ポー」に由来する。デビュー作は「二銭銅貨」数々の名作を生み出し日本に推理小説を広めた人物。推理小説ではそのエドガー・アラン・ポーのトリックを若干取り入れたようなものもあるが乱歩の独創性もしっかりあり最後はすっきり解決出来る謎解きが仕掛けられている。中には「悪霊」という推理小説を連載していたがどうしても結末が思いつかずに連載を中止し読者に謝った作品まであった。でも江戸川乱歩の推理小説はあまり大衆にはウケが良くなく「赤い部屋」「人間椅子」「鏡地獄」などの奇怪で少し気持ち悪く好みが分かれるような小説の方が好まれた。日本が戦争体制を強化していくようになり芸術への検閲が強化されはじめた1937年(昭和12年)には表現の自由を制限。そして一説では内務省のブラックリストに乱歩の名が載っていたとか。「芋虫」は1941年(昭和16年)には原稿依頼が途絶えてほぼ絶版に、最早「幻の作品」と言える。江戸川乱歩の生み出したキャラクターで有名なのは名探偵・明智小五郎と大怪盗・怪人二十面相。この二つのシリーズは特に沢山書かれており少年向け小説となっている。そんな一見子ども向けにも読みやすいかつ魅力的なキャラクターを書いた小説と推理小説家と名高いと思われる江戸川乱歩ですが、衆道・少年愛・少女愛・男装・女装・人形愛・サディズム・グロテスク等々残虐かつ官能さを書いた小説も多々あり一部大衆には大ウケ。明智小五郎が初登場した「D坂殺人事件」のオチはSMプレイの果ての不本意な殺人であったし「盲獣」は盲目の殺人鬼が繰り広げる「触覚の官能」乱歩自身が失敗作と言っている「盲獣」は「吐き気を催すレベルの変態小説」現代ではそういった性的趣向も存在することくらいノーマルな性癖の方でも知っていると思いますが、乱歩が生きた大正から昭和期にエログロ小説を書いていた江戸川乱歩はある意味時代の最先端をいっていた小説を書いていたのかもしれない, 次第に夫を虐げることに快感を覚えて行った時子は夫の唯一残った視覚さえも奪ってしまう。そのことを何度謝っても須永中尉は無視をし続けていたがある時「ユルス」と一言必死の思いで書き残し家から姿を消す、鷲尾少将と姿を捜し庭の方から何か這いずるような音が聞こえることに気づいた、そしてその後古井戸へ落ちるトボンと鈍い水音が聞こえた。時子はこの時、闇夜に一匹の芋虫が不自由な自分の重みで真っ黒な空間へ底知れず落ちていく光景を幻に描いていた。そんな一文で終わる。不思議なことに読み手も深夜の雑草が生い茂る庭に波打ちながら蠢く肉体、ガクンと首をもたげて井戸の中へと落ちていく須永中尉とそれを放心して見ている時子・鷲尾少尉の光景がぱっと頭に描かれる。たとえ勲章を貰っても軍人としての威厳も男として夫としての存在さえも無価値になった芋虫のような肉体に耐え切れずに自殺をしたのか時子にこれ以上弄ばれることが辛かったのか、はたまた負担をかけさせまいとした夫としての優しさだったのか。ただの肉塊と化した須永中尉の心中はどんなだったのかと想像を掻き立てられる終盤の畳みかけが凄い。そしてこの「芋虫」は2010年に寺島しのぶさんで映画化されている。題名は「キャタピラー」和訳すれば「芋虫」という意味。この映画で寺島しのぶさんは第60回ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞。原作を忠実に描かれており小説の通り時子を演じている寺島しのぶさんの圧倒的な演技力が素晴らしい。寺島しのぶさんといえば濡れ場がある作品が多いだけに今作でも四肢のない夫との情事が映像化されていて小説で想像する以上の倒錯が狂気に見える。もし夫がある日突然、物を見ることも出来ず音を聞くことも出来ず一言も発することが出来ない、肺臓と胃袋を持っているただ一個の生き物…肉塊と化したら、愛せるだろうか。, 探偵か、犯人か、江戸川乱歩作品の2つの顔海外のミステリー作品を日本に紹介し、自身も作家であった江戸川乱歩。代表作は『少年探偵団』や『怪人二十面相』を挙げる人がやはり多いだろうか。しかし、私はあえて言おう代表作は『芋虫』であると。いわゆる明智小五郎シリーズは小学校の図書室にも並んでいる超有名作品たち、いわずもがな。子供のころ手にとった人も多いはず。悪い奴らを知恵と勇気でやっつける、そんな作品。しかし、江戸川乱歩の真骨頂はエログロにこそある。と思う。この『芋虫』、ホント気持ち悪いです。戦争によって、体の大部分を失ってなお生きる夫。それをおもちゃのように苛む妻。明智シリーズにもエログロの要素はあるけれど、濃度のレベルが半端じゃない。勧善懲悪な作品を読んでいるときは探偵の気分。エログロ作品を読んでいるときは犯人の気分。どちらが好みかは自分の胸に聞いてみて。戦争文学と呼ばれるのはなぜかこの作品が...この感想を読む, 昔持っていた芋虫の小説が見当たらなく、ベスト・セレクションを購入してみました。表題である芋虫は身体の不自由な元軍人とその妻の物語。入り交じる憎悪と愛情、狂気が素晴らしく表現されています。見た目の醜い夫と早退して、人間の奥底にある醜い感情をもつ妻、2つが合わさるとこのような狂気が生まれるのですね。気持ち悪いさと不気味さがありながらどこか美しいと思ってしまう。悲しさややるせなさも感じますが、夫婦の愛情も垣間見る事ができる、さすが乱歩といえる作品でしょう。ちなみに、これは伏字がされているバージョンです。昔持っていたものは伏字無しでしたので、そちらの方がよかった。.